大阪高等裁判所 平成12年(ラ)193号 決定 2000年3月02日
抗告人
株式会社栄光商会
代表者清算人
A
相手方
住銀保証株式会社
代表者代表取締役
B
代理人弁護士
宮坂益男
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第一抗告の趣旨及び理由
別紙「執行抗告申立書」≪省略≫及び「執行抗告理由書」≪省略≫記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
1 抗告人は、本件差押命令別紙物件目録1、2記載の各建物(以下「建物1」、「建物2」といい、両建物を合わせて「本件建物」という。)を、その根抵当権上の債務者兼所有者のC(以下「C」という。)から貸借し、同建物を第三債務者に賃貸しているから、相手方の根抵当権は抗告人の第三債務者に対する賃料債権(転貸料債権)に及ばないと主張する。
2 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) Cは、建物1の各部屋を第三債務者Dほか五名に賃貸し、建物2の各部屋を第三債務者Eほか二名に賃貸していたが、株式会社住友銀行に対する債務の支払いを遅滞して期限の利益を失い、保証人である相手方が、平成一〇年一二月二一日に同銀行にCの債務を支払った。Cは、その直後の同月二五日、本件建物につき、使用目的を本件建物の転貸、賃料を月額五〇万円、敷金を一〇〇〇万円と定めて抗告人に賃貸した。
(2) 抗告人は、翌一一年一月、建物1の二〇一号室の賃借人Fとの間で「建物賃貸借契約継続確認書」を取り交わし、同月一日以降、抗告人との間で同室につき賃貸借契約が継続していることを確認し、Cも旧賃貸人として同確認書に署名捺印している。抗告人は、建物1のその余の賃借人及び建物2の賃借人との間でも各賃借にかかる部屋につき上記同様の契約を締結したものと推認される。
(3) 相手方は、Cを債務者、本件建物の賃借人を第三債務者として、大阪地方裁判所に対し、本件建物に対する根抵当権に基づく物上代位によりCの第三債務者に対する賃料債権の差押命令を申立て、同裁判所は、平成一一年二月二四日、債権差押命令を出した(同裁判所平成一一年(ナ)第八九号)。第三債務者の一人である建物1の六〇一号室の賃借人Gは、同裁判所から送付された陳述催告に対し、同年三月二日付書面で、Cの妻から、同日以降、同室の賃貸人はCからHに変更されたと告げられた旨附記して、賃貸人はCではないと返答した。Hは、Cの妻の実父である。
(4) 抗告人は、①各種電気通信設備、電気設備の設計、施工 ②上記に関連する機械、器具、材料、部品等の販売、輸出入等を目的とする株式会社であって、不動産の賃貸、管理等は目的としていない。
抗告人は、平成一一年七月二九日に株主総会の決議により解散している。
3 以上の認定事実によれば、Cと抗告人は、相手方が本件建物に設定されている根抵当権に基づく物上代位により賃料債権を差押えることを妨害する目的で、本件建物につき賃貸借契約を締結したものと認められ、このような場合には、相手方の根抵当権に基づく物上代位は抗告人の各賃借人(転借人)に対する転貸料債権にも及ぶものと解される。したがって、抗告人の本件抗告は理由がない。
4 よって、本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 亀田廣美)